The Obedient Feelings ―outside―                                 outside      雨のち晴れ


最近、麻衣の様子が変だ、そう思ったのはみんな同じだった。


「ねぇ、最近麻衣の様子が変じゃない?」
綾子は給湯室に行った麻衣が行った隙に、小声で回りに座っていたメンバーに言う。
「確かにそうなんだよなぁ。少年、どう思う?」
滝川は話の矛先を安原に向けた。
「確かにそうなんですよねぇ。何か上の空だったりしてますし」
うーんとうなりながら、安原は目の前にいる少女に視線を向ける。
向けられた少女は、少し溜息をついてから答えた。
「確かにおかしいですわ」
「いつもやったら、もっとハキハキしてますやろ。ここ最近は来るたびにぼーっとする頻度が高くなってるように思えます」
ジョンは首をかしげてそう言った。

「…ナルとなんかあったわけ??」

綾子はぽつりともらした。
みんなわからないこの状況に、うーんとうなる。
そこに麻衣が戻ってきた。

「どしたの?みんな」

お茶とお菓子を持ってきた麻衣は、この状況に少し戸惑った。
麻衣の存在に気づいた皆は「何でもない」と綾子の一言で、再びいつもの雰囲気に戻した。
紅茶を飲み、お菓子を食べ、一段落したところでぞろぞろと帰っていった。
ただ、いつもと様子が違うのは…『夜8時に綾子の家で集合』と約束したこと。



その日の夜8時―…。
綾子の家で、滝川、真砂子、安原、ジョン、そしてなぜかリンの5人が集まっていた。
綾子が軽く作ったおつまみの類をテーブルの上に置いたところで、滝川が話し始める。
「なぁ、リン。最近麻衣の様子がおかしくないか?」
皆、一気にリンの方を見る。
「そうですね。確かに…この間もちょっとしたことがありましたね。安原さんならご存知でしょう?」
「あ、もしかして所長室の件ですか?」
「ええ」
そんなことは初耳だと言わんばかりの顔が安原に視線を向ける。
「どういうことだ?少年」
「実はですね…」
そう言って話し始めた。




事の発端は一週間も遡る。
麻衣が本の整理をして、安原はパソコンにデータ入力をし、リンは部屋にこもっていた時だった。
「麻衣、お茶」
いつもどおり、ドアを開けて麻衣に言うナル。
「はいはい。何がいいの?」
「何でもいい」
そう言って、ナルはまた所長室に戻った。
まったくもぅ〜とぼやきながら、麻衣は給湯室に行く。
しばらくすると麻衣が紅茶をいれて、所長室のドアをノックした。
「失礼しまーす。ナル、淹れたよ」
そう言うと、麻衣は所長室へと入っていった。
「ナル?ここに置いておくね」
麻衣の存在を気にしないかの如く、いつもどおり本を読みふけるナル。
麻衣がそう言って、カップを置く。
戻ろうと回れ右をしたところで、ナルに呼び止められた。
「麻衣」
「ん?何?」
ナルは立ち上がり麻衣の方に歩いてきた。
そうして麻衣の手を取った。
「どうした?この手」
麻衣の右手の人差し指から少し血が出ていた。
「あ、さっきちょっとやっちゃったの。舐めときゃ治るから大丈夫だって」
へらへら笑いながら麻衣が言う。
と、次の瞬間麻衣は思いっきり固まった。
ナルが麻衣の手を掴み、傷口をぺろりと舐めたのだ。
「な、ナル…??」
麻衣の顔は一気にゆでたこ状態になった。
鼓動がどんどん早くなる。
「…消毒しておけ」
しれっとした顔で言うと、ナルは麻衣の手を離した。
「う、うん。じゃあ、あとでカップ取りに来るね」
そう言うと麻衣はあわてて所長室を出た。
真っ赤な顔をして出てきた麻衣の姿に、安原は呼び止めた。
「谷山さん?どうしました??」
「………」
麻衣は返事をしない。
上の空だった。
「谷山さん?」
「…は、はいっ!どうしたの?安原さん」
「いえ。あ、私もお茶をもらえますか?」
にっこりと安原が笑顔を向けると、麻衣は「はい!」といって給湯室に走っていった。



実は麻衣がナルとあんなことになってるとき、偶然にも安原はその光景を目にしてしまっていた。
それもそのはず。
リンがたまたまナルに用事があったのを思い出し、所長室に入ろうとした瞬間、少し開いていたドアの隙間から丁度その現場を目撃してしまったのである。
リンがただ黙って突っ立ってるのを見て、安原もどうしたものかと思い、中を覗いた。
で、丁度その現場を見てしまうのである。




「…というわけなんですよ」
安原が一通り話し終えると、まっさきに口を開いたのは滝川だった。
「ナルめ〜!!娘に手を出しやがって!!」
いきなり吠え出す滝川を無視して、綾子がつぶやいた。
「へぇ〜。意外ねぇ。真砂子、どうする?」
「どうすると言われましても…私はとうの昔に振られてる身ですもの。関係ありませんわ」
きっぱりと言い放つ。
そう、真砂子はもう数ヶ月前にナルに告白をし、振られていたのだ。
そのことを皆、知っていた。
「ナルって麻衣のことどう思ってるのかしら?」
綾子の言葉に珍しくリンがはっきりと答えた。
「恐らく、谷山さんに対しては心を開いていると思います。普段、女性を寄せ付けようとはしませんから。ただ…」
言いかけたところで、リンは黙った。
その意味を皆察知できたから、誰も尋ねようとはしなかった。


”ただ、ジーンと重ねて見てるのではないか?”


と思ってるということ―…。
「…わかったわ。今度麻衣をうちに連れてきて、話してみる」
綾子がみんなに提案した。 それに皆が反対するはずも無く、「そういうことで」と納得したのだ。
夜も遅くなったところで、皆家路と戻った。
真砂子は安原に送ってもらい、リンとジョンはそれぞれ帰った。
ただ、一人除いては…。
「ってぼーず!なんであんたがいるの?」
「いちゃ悪いか?」
即答された綾子は、ソファに座った。その横に滝川が座る。
「ったく。なら、最後までつきあいなさいよ」
そう言ってビールを取り出した。
「もちろん。そのつもりで残ったんだからよ」
綾子からビールを受け取ると、ごくごくと飲み始める。
綾子は少ししたところで、飲むのをやめた。
「どうした?」
いつもの綾子らしくないなと思い、滝川が綾子の顔を覗く。
「ん。ただ、麻衣が幸せになってくれたらいいなと思って」
そう言った、綾子の顔は少し儚げで、こういう時に失礼かもしれないが『きれい』だと滝川は思った。
「そうだな。後は麻衣の気持ちとナルの気持ち次第だろう」
半ば諦めモードの滝川の顔を見て、綾子はぷっと笑った。
「…笑うとこじゃないと思うんだが?」
「だって、ホント父親の顔してるんだもん」
あはははと声に出して綾子が笑う。
滝川は釈然としないと言う顔をしながら、ビールを飲み干した。
そうやって夜も更けていったのだった。




*あとがきもとい言い訳*
最初に当人達の話を書こうと思ったら、なぜかその周りの人達の話を書いてしまった自分って一体??
なんか書けちゃったんですよねぇ。最初に麻衣側から書こうと思ったら、止まっちゃうし。
これも朝仕事してる時に思い浮かんだ話。 (どうも朝仕事してる時が一番切羽詰っていい感じで浮かぶらしい…)
何気にぼーさんv綾子が入ってます。こうやって周りを書くのって楽しいですね。
突発的に考えて書いたから、作成時間は2時間くらいです。
てなわけで、予告編を覗いてから本編へGO!!(笑)…なぜか長編になってしまった、この話…。
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